東京地方裁判所 平成7年(ワ)3570号 判決 1995年11月07日
原告
中山清
原告
示村甫
被告
新日本ニューメディア株式会社
右代表者代表取締役
山田勝彦
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
一 原告らは、
1 被告は、原告らに対し、各金八〇万円及びこれに対する平成七年三月四日から支払済みまで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決と仮執行宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。
1 原告らは、平成六年九月、教育事業を営む被告会社が新聞広告で大学受験生を対象とした心の健康に関するメンタルアドバイザーを募集している記事を見てこれに応募し、そのころ、被告会社との間で、被告会社の定める養成講座(受講料一二万円)を受講してメンタルアドバイザーとしての資格認定及び登録を受けることを停止条件として契約期間を一年とする雇用契約をそれぞれ締結した。
被告会社は、メンタルアドバイザーの報酬システムについては、(一)担当する高校生は一〇〇名で年間延べ人数六〇〇名、(二)トレーニング回数は二か月に一回で年間六回、(三)トレーニング料は一回当たり四〇〇〇円で年間一人当たり二四〇万円と定めている。
したがって、メンタルアドバイザーの報酬額は年間二四〇万円となり、月額に換算すると二〇万円となる。
2 原告らは、被告会社に対しそれぞれ右受講料一二万円を支払って右養成講座を受講し、平成六年一二月一日、メンタルアドバイザーとして資格認定を受け、さらにその登録を受けた。
したがって、原告らにつき右条件が成就し、各雇用契約は効力が発生した。
3 被告会社は、原告らのメンタルアドバイザーとしての就業は平成六年一一月からと伝えていたが、同月二四日、被告会社内部の一方的な都合で就業が延期されることになり、さらに、被告会社は、平成七年二月一五日、事実上倒産し、営業活動が不可能な状態となった。
4 このように、被告会社は、原告らを就労させなかったのであるから、債務不履行として、原告ら各自に対し、平成六年一一月から平成七年二月までの生活保障のための損害賠償金月額一〇万円、合計四〇万円の支払義務があるというべきである。
5 また、原告らは、他の職場に就職せず、就労を待ちわびていたのに実現せず、大きな精神的損害を被った。右精神的損害に対する慰藉料としては原告らそれぞれにつき四〇万円が相当である。
6 よって、原告らは、被告会社に対し、それぞれ債務不履行による損害賠償請求権に基づき、生活保障としての損害賠償金四〇万円及び慰藉料四〇万円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成七年三月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告会社は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされる答弁書には要旨次の記載がある。
1 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
2 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1のうち、被告会社が教育事業を営むものであること、被告会社の報酬システムが原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。
原告らと被告会社との間では具体的な雇用契約は締結されていないし、契約は受講終了を単純な条件とした雇用契約ではなく、その旨表示したこともない。
(二) 同2のうち、原告らが被告会社に対し養成講座の受講料一二万円をそれぞれ支払ったこと、原告らがメンタルアドバイザーとしての資格認定を受けたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。
(三) 同3ないし5の事実は否認し、その主張は争う。
原告らの具体的就業はまだ開始されていないし、特段待機手当等を支払う関係にはなっていない。
三 証拠関係(略)
理由
一 請求原因1のうち、被告会社が教育事業を営むものであること、被告会社の報酬システムが原告ら主張のとおりであること、同2のうち、原告らが被告会社に対して養成講座の受講料一二万円をそれぞれ支払ったこと、原告らがメンタルアドバイザーとしての資格認定を受けたこと、以上のことは当事者間に争いがない。
二 原告らは、停止条件付き雇用契約が成立したと主張しており、原告ら本人尋問の結果中には、メンタルアドバイザーとして登録されると自動的に被用者になる旨の説明が担当者からあったとするなど、この主張に副う部分がある。
しかし証拠(略)によると、被告会社が原告らとの面接の際に交付した案内書には、メンタルアドバイザー養成講座に参加すると、学校、予備校、塾などでカウンセラーとして活躍できる知識が養成される旨、将来セラピストやカウンセラーをめざす者にとっては、基礎知識を取得できるためのステップとして学習できる旨、一旦振り込まれた受講料は返却しないが、都合により受講することができない場合、代理の者を受講させてもよい旨、「アドバイザー契約」の表題のもとに、「登録されますとアドバイザー契約をし、広く活動への支援が受けられます。契約期間は一年間とし、一年毎の更新となります」と記載されていることが認められる。
このように案内書の中で右養成講座により他の職場でも活用できる基礎知識が得られる旨を記載していること、登録後、被告会社と別途契約をする旨を明記していること、被告会社従業員として採用するのであれば、本人以外の者に研修させることは無意味であるにもかかわらず、代理人による受講を認めていることのほか、右養成講座については受講者が受講料一二万円を支払うものとされていること(書証略、原告ら本人尋問の結果により認められる)にかんがみると、原告ら本人尋問の結果のうち原告らの前記主張に副う部分はにわかに措信しがたく(しかも、原告示村は、どの段階で雇用関係が生じるかについては、被告会社担当者は明言しなかった旨を供述している)、ほかに右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
また、雇用契約の成否は別論としても、被告会社が原告らを就労させるべき義務を負うとする法的根拠が明らかでないし、原告らの主張する生活保障のための損害賠償金については、その法的根拠も明らかでない。
三 よって、原告らの本件各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小佐田潔)